高血圧症

高血圧症とは

収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上に保たれた状態を高血圧症とされている。日本高血圧学会は、高血圧症を更に、以下のように細かく分けています。

■成人における血圧値の分類(mmHg)

分類 収縮期血圧   拡張期血圧
至適血圧 <120 かつ <80
正常血圧 <130 かつ <85
正常高値血圧 130-139 または 85-89
Ⅰ度(軽症)高血圧 140-159 または 90-99
Ⅱ度(中等症)高血圧 160-179 または 100-109
Ⅲ度(重症)高血圧 ≥180 または ≥110
収縮期高血圧 ≥140 かつ <90

ただし、たまたま測った1回が、140/90mmHgを超えたからといって、高血圧症に該当するとは限りません。
そもそも血圧は、心臓から拍出された血液が、血管の壁を内側から押す圧力です。
血液が全身を循環するために、血圧は重要な役割を果たしています。
全身の各場所が必要な時に必要なだけ血液を送り届けるため、血圧は絶えず変動しているのです。
この血圧の調節の仕組みに異常が生じ、血圧が高い状態が持続するのが高血圧症であり、診断には正しい測定法での定期的な血圧測定が必要となります。

診察室(や健康診断)では血圧は高いと言われるが、普段の血圧は高くないとおっしゃる方がよくいらっしゃいます。 もしその通りなら、白衣高血圧(医療従事者に測られる時だけ血圧が上昇する)に相当し、治療の必要性は低いと言えます。
しかし、白衣高血圧と証明するためには、家庭での普段 の血圧を測定・記録して判断することが必要です。
以前、たまたま測った血圧が低かったからと言って、高血圧症を否定した事にはならないのです。(家庭血圧測定方法に興味のある方は、高血圧症の治療法の最後に記載してあります。)

血圧が高い状態を放置しますと、血管に高い圧力がかかる状態が継続し、動脈硬化が起こります。
高血圧症による動脈硬化は全身の血管で起こる事が知られており、そのため、脳卒中、心筋梗塞、動脈瘤、腎硬化症、眼底出血など様々な病気が引き起こされます。
更に、高血圧症は心臓自身にも負担となり、心臓肥大や心不全を発症することもあります。
また最近になり、同じ程度の高血圧症の患者さんでも、血圧の変動が大きい方ほど、高血圧症による合併症が生じやすいことも明らかになってきました。

高血圧症の原因

高血圧症の患者さんの約90%は、原因が不明な本態性高血圧症です。逆に血圧が異常に上昇する原因(腎動脈狭窄、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫 など)が明らかにある場合は、治療により根治が可能なこともあり、高血圧症の治療を開始する前に確認(検査)が必要な場合があります。

本態性高血圧の原因は不明ですが、高血圧発症には、遺伝因子や過剰な塩分摂取・肥満・喫煙・ストレス・運動不足などの生活習慣が関与していることが知られています。

高血圧症の症状

血圧が高いために症状が現れることはまれであるために、高血圧症は「サイレントキラー(静かな殺人者)」とも呼ばれています。

高血圧症が進行し、心臓や腎臓の機能が低下している場合には、血圧が高い状態が継続しますと、動悸・息切れ、足の浮腫み、夜間多尿などを来たすことがあり、早めに医療機関を受診してください。

高血圧症の治療法

高血圧症の治療は、生活習慣の改善から始めます。
塩分の過剰摂取が昔から良くないと言われていますが、これは全く正しいです。

■生活習慣の改善

血圧が正常な方でも、塩分過剰摂取を継続すれば、1年に血圧は1mmHgずつ上昇すると言われています。 ですから、減塩は高血圧症治療の基本となります。
目標は食塩摂取量を1日6g未満にすることですが、気をつけないといけないのは、食品によっては食塩ではなく、ナトリウムの含有量が表示されていることがあります。
その様な場合には、ナトリウム量(mg)×2.54÷1000で、含有する食塩量を計算し直さなければなりません。
日本人は1日平均約11gの食塩を摂取していると言われています。
ほとんどの食材に塩分が含まれていますので、食材選びから始めないと、食塩摂取量を大幅に減らして目標達成するのは困難です。
でも、難しいからと言って、諦めないでください。
まず、薄味に慣れましょう。特に、醤油や塩をよくかける習慣のある方は、量を減らしていく工夫を是非試してみて下さい。
塩分摂取を控える習慣は、血圧を下げて合併症を予防するために、とても重要ですので、可能な範囲でぜひ頑張ってください。

肥満(BMI(身長(cm)÷体重(kg)×100)が25以上)ある方や運動不足の方は、減量や運動により血圧改善効果が期待できますが、始める前に医師と相談をしてください。
また、禁煙や節酒(エタノール換算で男性は20-30ml/日以下、女性は10-20ml/以下を目安)は是非トライしてください。
腎臓に重い障害がない方は、野菜・果物の積極的に摂取することも効果があります。
ひとつでも多く生活習慣の改善を行えば、血圧の改善により効果が高まります。

■薬物治療

薬物治療は、生活習慣の改善を行っても、下に示してあります降圧目標に達しない患者さんを対象に行われます。
高血圧症の治療の目的は、心血管病の予防ですが、薬物治療をいつから開始するかは患者さんによって異なります。
血圧上昇の程度はもちろん、心血管病を起こしやすい危険因子*を多く持っている方は、早期からの治療が必要となります。

*65歳以上の高齢者、喫煙者、肥満者、メタボリック症候群の方、身内に50歳未満で心血管病にかかられた人がいる方、糖尿病の方

■降圧目標

  診察室血圧 家庭血圧
若年、中年、前期高齢者患者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満
後期高齢者 150/90mmHg未満
(忍容性があれば140/90mmHg未満)
145/85mmHg未満(目安)
(忍容性があれば135/85mmHg未満)
糖尿病患者 130/80mmHg未満 125/75mmHg未満
慢性腎臓病(CKD)患者
(蛋白尿陽性)
130/80mmHg未満 125/75mmHg未満
脳血管障害患者
冠動脈疾患患者
140/90mmHg未満 135/85mmHg未満

(日本高血圧学会 「高血圧治療ガイドライン2014」より抜粋)

血圧を下げる多くの薬剤がすでに治療に用いられていますが、どの薬を使用して(組み合わせて)治療を行うかは、年齢や臓器障害の程度、合併症を考慮して決定しなければなりません。
個々の薬剤の説明は省略させていただきますが、高血圧症の治療を始める際には、家庭血圧の測定・記録を是非行ってください。
診察室で測定される血圧値とは全く異なることが良くありますし、家庭血圧の降圧目標を達成した方は、心血管病にかかりにくいとの研究結果も発表されています。
ただし、血圧ノイローゼには絶対にならないでください。
1回でも降圧目標値を超えたらダメと思われる方がいますが、できるだけ長期間(最低でも1週間以上)の血圧の平均を評価することが基本になっています。
普段より高い血圧がでる日があれば、体調に変化がないか、服薬を忘れていないか、生活に変化はないかをまず自己チェックすることが大切です。

《家庭血圧の測定法》
血圧の記録は朝・夜の2回です。血圧計は機種(メーカー)を問いませんが、血圧は腕で図るタイプを選んでください。(手首で測るタイプも市販されていますが、腕で測る血圧値と一致せず、手首の血圧に関する基準は定められていないためです。)
血圧を測る前に、トイレをすませて、1-2分腰かけてから測定して下さい。腕にまくカフは、肘関節にかからない様にして、カフの中心の高さが、心臓の高さになるように腕の位置を机の上で調整してください。
血圧の測定は、1度に2回行い、その平均を記録する事が推奨されています。
朝の血圧は、起床後1時間以内で、薬を内服する前で、朝食を食べる前に行ってください。
夜の血圧は、夕食や薬の内服、入浴をすべて済ませて、就寝前に行ってください。
正確な計測を継続するために、血圧計は、数年に1回の点検を行うにしてください。